秋の こもごも


“秋めきを探して?”




そう云やあ じきにお月見じゃあなかったっけと、
イエスの方が口にしたのは、
商店街からの帰り道、顔なじみの和菓子屋さんの前を通った折、
月見団子のポスターが目に入ったかららしく。

 「そうだったね、またお団子作るからね?」
 「わぁいvv」

今年の中秋の名月、十五夜は9月の27日だそうで、
ちなみに翌日はあの“スーパームーン”が見られるのだとか。
2日続けて月を眺めるイベントが続くんですねぇvv
ただ、そのスーパームーン、
月が一番大きくなる時間帯は、日本時間で午前11時51分頃だそうで、
残念ながら昼間なので、ピーク時のお月様は見られません。
そうは言っても、この日は通常よりも月が大きく見えるので、
夕方以降、空が暗くなったらスーパームーンを探すのも一興ですよねvv
そんなこんなと他愛ないことを話しつつ、仲良く並んで帰途についたお二人。
イエスがアルバイトに出る折に決めたのが、

 一日4時間以内であること

という、ブッダとの約束で。
石窯オーブンのためのおもちゃ屋さんのバイトを皮切りに、
今や結構気安く手掛けておいでのバイトだが、実は2つ目のが微妙に微妙なお出掛けになり。
いや、業種自体は大したものじゃなかったが、
イエスがついつい…やはり贈り物がらみだったからと内緒にしたうえ、
ブッダの側からも聞かない方がいいのかななんて気を遣い、
毎日のように何処へ出かけるキミなのかを聞けなかったところが
ささやかな齟齬を生んでの混乱となりかけたのが浴衣騒動だったのだけれども。
(ちなみに、発端は『
もっとずっと』参照)
アパートで一人でお留守番というのは何だか寂しいし、
家事も慣れたもので話し相手もいないのではすぐにも手持ち無沙汰にもなるからと、
まずは“じゃあ私も一緒に…”とブッダが言いかかったのへ、
イエスは速攻というノリで “それはダメっ”と強硬に反対した。
あまりの勢いに気圧されてしまい、
じゃあ大人しくお留守番をするけれど、
その代わり、イエスの方もすぐにも帰って来てくれなきゃと、

 だって寂しいんだもん、と

さすがに幼い子供の駄々みたいで照れ臭かったか
視線を逸らし気味に含羞みつつ、
“そうでなきゃヤダ”とばかりの言いようをしたところ。
素直に心情を口に出来るようになったブッダだったのと
あんまり愛らしい言い方だったのへハートを撃ち抜かれ、
以降、その約束は律儀にもずっとずっと守られ続けていて。
なので、今回のバイトを頼まれた折も、
『やっぱり4時間にするの?』
なんてイエスから聞かれ、困ったように う〜んとと、
恐れ入るならぬ “恥ずかし入って”しまった如来様だったのはここだけの秘密vv

 “もうもう、イエスったら。////////”

含羞む伴侶様を嬉しそうに見つめてきた彼なのへ、
こちらはこちらで 意地悪なんだからと拗ねつつも、
そのそもそもの始まりを思い起こせば、また別の感慨が浮かびもしたブッダ様。

 『だってブッダには、
  誠実さとか寛容さから人が自然に集まるでしょう?』

その証拠に、今の今だってブッダには奥様層のお友達が多いから、
それはそれでイエスには心配。
なので、ブッダまでアルバイトだ何だと外へ出ては嫌だなんて、
それこそどこか強引な駄々をこねもしたイエスだったそうで。
後日、本人からその辺りを聞いて、
ありゃまあと 今度はその買い被りやら独占欲やらへあらためて照れたものだった。

 『女子高生のお嬢さんたちよりも用心深いだろう
  人生経験の浅からぬお母様層が寄って来るんだものなぁ。』

そんな中には、静子さんとか松田さんとか
そりゃあ堅実そうなしっかり者だっていて。
事情が分からぬ一般の方々にしてみれば、その素性が何とも怪しいこちらの二人、
何だかだあったややこしい出会いの末、結局は信頼してくれるようにもなったれど。

 『そっちだって、
  ブッダの振る舞いというか事態収拾力で
  何とか繋ぎ留めたうえで信用を得たよなもんだしねぇ。』

 『な、何言ってるかなぁ。///////』

思い出しただけでお耳の先が赤くなり、

 「…ぶっだ?」
 「いやうん、えっと。まだちょっと蒸すよね。////////」
 「? そっかなぁ。」

ここ数日の涼しさでもって 一気に秋めいたとはいえ、
陽はまだまだ長いから。
言われてみれば…?と
イエスも周囲から蒸し暑さを何とか嗅ぎ取ろうとしてみたり。(苦笑)
人通りのない中通りには ぽかり間延びした空気がじんわりしている昼下がり。
そんな中をほてほてと歩いて歩いて、
アパートへと帰り着くと、ブッダは夕食へのお買い物を整理し、
イエスはイエスで空気を入れ替えがてらに六畳間の窓を開け、
出しっ放しにしていた卓袱台の縁へそれぞれに腰を下ろして ほうと一息。

 「あ、そうそう。ブドウがあるけど食べる?」

冷たい麦茶でも淹れよっかと思ったそのまま、
冷蔵庫に入れてあったのを思い出し、おやつの代わりにいいかなと、
座ったばかりだというに ちゃっちゃと立ち上がるブッダであり。
骨惜しみや動き惜しみをしないところが
イエスに“伴侶”とか“若奥様”とかいう感覚をついつい抱かせてしまうのだが。

 “しかもその上、ママ友がいっぱいだし。”

イエス様、それ引用が微妙に違う。(笑)
軽く水洗いをし、ざるで水を切ってなどなどと
それは丁寧な気配りの下、ごそごそ支度をする気配を聞きながら、
ふと、イエスの目に入ったのがこの夏の大親友だった家庭家電。

「どんどん秋めいて来て、ヒエールくんもお片づけだね。」
「ヒエール?」
「冷風扇だよ♪」

名前を付けてしまったほどに親しみ深くなっており、
しみじみとミニタワー型の機体を眺めるお人を見やるにつけ、

 “そのうちPCの“つくもん”同様、
  冷やしすぎはいけませんよなんて、
  ヒエール君から気遣いされるようになったりして?”

何たって、イエス様直々に洗礼名を付けられたようなもんですものねぇ。
勿論のこと、ネタではなくの本気な心情として、
その内心でぽつりと呟いてしまった釈迦牟尼様だったのはともかく。
素麺ともモヒートともお別れかなぁなんて、
夏の幸いたちを数え上げ、別れを惜しんでいたかと思や、

 「あ、でも
  秋が深まって寒くなったら、
  今度はブッダの淹れてくれるロイヤルミルクティーが飲めるのかぁ。」

その方が幸いだよねぇ、うんうんと。
不意打ちもいいところな言い回しを持ち出すヨシュア様だったものだから、

 「……っ☆/////////」

もうもうもうと真っ赤になっての照れまくる如来様の手元では、
お皿に並べられてた小ぶりな種無しブドウのデラウェアが
一気に育って(?) 巨峰へ転変していたそうな。






  ◇ おまけ ◇


瑞々しい旬のブドウに、
美味しい美味しいと無邪気にもご満悦となった伴侶様なのへ、
いやあの いただいたのはデラウェアだったんだけどもねと、
まだ赤みの引かないお顔で言い足したブッダであり。(笑)

「お裾分け?」
「うん。」
「静子さん?」
「ううん。婦人会で知り合った、少し年嵩な奥さんで。」

以前にトマトやキュウリをいただいたこともあって、

「こないだ茹でて食べたトウモロコシも
 同じ人から貰ったものだよ。」

「あ、あれもそうだったの。美味しかったねぇ。」

家庭菜園を持っていて、そのお世話を趣味にしておいでの奥様で。
実を云や、

 “お誘いがあるにはあったけど、”

ブッダのお料理の腕前とか器用なところ、
まめで根気があるところも重々ご存じなものだから、
隣の区画が空いてる話を持ち出され、
一緒にどうですかなんて誘われもしていて。
ただまあ、その話を持ち出せば、
ほらほらやっぱり、
キミのほうこそ人望厚くて人が集まってくるのだからと、
イエスからむむうなんて拗ねられかねないので、言い出せないままになっており。

 “ちょっとばかり微妙な場所らしいし…。”

遠くて困るというんじゃない。
むしろ、朝晩のジョギングのついでに見てこられる距離でもあるけれど。

 “……。”

朝の起き抜け、イエスの寝顔とか ぎゅうされてるとこから抜け出した直後とか
そんな状態で草花や野菜の手入れなんて手掛けたら、

 “どんな奇跡が起きるやら。///////”

自覚はあるんだな、ブッダ様。(笑)
育ててもない、しかも季節も違うあれやこれやが実ったりした日には。
それなりの障壁効果や
奇跡系の暗示が働いてくれれば何とか怪しまれはしないかもだが、
そのたびにこっちがドキドキせにゃならぬ。

 “何より、イエスにどう説明すればいいっていうの。////////”

キミへのときめきで実った真冬のスイカです、とか?(う〜ん)

 「家庭菜園でそんな作れるものなの?」
 「…っ☆」

言葉にはせぬままに、その胸中で転がしていたことと重なるような訊きようをされ、
うわぁあっとまろやかな肩が跳ね上がりかかったものの。

 「あ、ああ、いやうん。あのね。」

お友達の畑の話を聞かれているのだと、
そこはすぐさま理解も追いついたおかげさま、取り乱すことなくの応じが出来て。
さすがにブドウは違うが、まあ、キャリアの長い人だからと、
何とか落ち着いてきたブッダ様、
我がことのように ふふ〜んなんて誇らしげに笑って見せて。

「器用な人で、お裁縫も得意でね。
 刺繍歴15年とか言ってたかな。」

えっとぉと宙を見上げたのは、他になかったかなと思い出そうとし始めたからで。
まろやかな指先をあごの先にちょんちょんとする仕草が可愛いなぁなんて、
やややにさがって見惚れておれば、

 「そうそう、ピアノ歴は何と40年とか言ってらしてね。」
 「え? 40年?」

そこまではイエスの側もまた、ブッダの誉れを聞くように、ほのぼのとした表情でいたものが。
そちらを聞くとやおら身を起こしたのが意外といや意外。

「40年って凄いじゃないの。
 で? 作品はどこの? 立川教会のパイプオルガンとか?」
「…イエス。作った歴じゃなくて、演奏歴の話だよ?」

どういう勘違いをしたものか、
すぐさま判ってしまえるようになったブッダ様。
如来としての蓄積の深さとか何とかいうより、
イエス様への理解の深さの賜物なんでしょうね、やはり。(苦笑)




   〜Fine〜  15.09.04.


 *おまけがあまりに取り留め無くてすいません。
  つか、大工さんだったイエス様なら、
  ピアノ歴と言われたらそっちを想起なさるんじゃないかと…。

  一気に秋めきましたね。
  こちらでも朝晩は半袖短パンでは寒い日もあり、
  でもまだまだ油断はしておりませんよ、ええ。(ふっふっふっ)


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